《本当の革命》

 

男の母性をご説明する為に役立つと、上から示されたのは意外なものだった。

 


十数年前に公開された映画だそうだ。
宮司は全く知らなかった。

舞台は1994年、中部アフリカのルワンダ。
フツツチと言う二つの部族が対立し、フツ族によるツチ族大虐殺が起きる手前から物語は始まる。

主人公ポールは、ルワンダの首都キガリにある『オテル・デ・ミル・コリン』の副支配人。

 


四つ星ホテルの宿泊客を満足させる、一流のもてなしや格式を保つことを日々心がけ、世渡りも上手く、家へ帰れば愛する妻タチアナと可愛い三人の子供達が待っている。


順風満帆な暮らしのはずだった。

ほんの少し肌の色の明るさや、鼻筋の通り方が違っているだけの二つの部族。

 


その片方が徒党を組み、もう片方を表立って殺し始める騒ぎが起きるまでは。

古くはツチ族フツ族が虐げられて来た時代があり、昔年の恨みが爆発した形でフツツチ「ゴキブリ」と呼んで、殺し始める。

互いに不満はあっても、虐殺までは行かない。
何かあっても国連軍や西欧諸国が沈静化させるだろう。

 


そう踏んでいたポールの読みはことごとく外れる。

この状況で彼の立場は複雑だ。

ポールはフツ族、妻のタチアナはツチ族なのだ。
子供達は両方の血を受け継いでいる。

ポール自身も父はフツ、母はツチと言う両親の元に生まれており、どちらにも付きようがない。

 

 

殺されかけた妻や子供、近所に住むツチの人々を伴って、ポールは職場であるホテルに行き、そこに彼らを匿う。


ホテルには、治安の悪化で逃げ出す宿泊客と入れ替わりに、助けを求めるツチの人々が次々にやって来た。

避難所と化すホテル。

国外に居るホテルの経営者、虐殺を煽動する将軍とも交渉で渡り合い、知略賄賂を使ってポールは人々を守る。

観るうちに何故、上がこの作品を提示したのかが次第次第に分かって来た。


人間が虐殺と言う理不尽に遭遇した時に、「目には目を」パターンになることは多い。


そうでなくても自分の命も危うい状況では、「やられる前にやれ!」となっても不思議はない。

ところがポールにはそれがないのだ。

死に遭遇すれば悲しむ。
危機に瀕している人が居れば懸命に助ける。
自らの命も大切にする。


そのエネルギーは全て生きる為に用いられる


怒りや憎しみ、復讐心から、殺す為に用立てられたりしないのだ。

ポールの「生きること」は、「敵が死ぬこと」とイコールにならない。

虐殺が始まった当初、ポールは自身の家族の安全だけを優先しようとしていた。

 

 

それが妻タチアナの懇願によって、周囲の人も出来る限り助けて行く方針に変わる。

自分達だけでなく、他の人もと夫に言い聞かせる妻も腹が据わっているが、それをちゃんと聞く夫も凄い。

ポールが女の意見を聞き入れ実行に移すだったのが大きかった。

命からがらホテルに逃れて来る人々。

 


彼ら一人一人に向けて、ポールは出来る限りのことをする。

一男性としての父性を超え、彼の全母性が開かれたことが分かるシーンがある。

世界中の友人知人への電話作戦が功を奏し、避難していた者の一部に、外国への亡命が認められる。


ポール一家もその中に含まれていた。


まだ行き先の決まらない人々に見送られ、一度は発とうとするポール。


だが決断し、妻と子供達を先に行かせ彼はホテルに残る。
 
残る者を見捨てて行けないと妻に詫びながら。

 


その瞬間、肉の妻や子達も、受け入れ先のないままホテルに残される人々も、彼の深い部分では同じ“家族”となったのだ。


ルワンダ虐殺は120万人を超える死者を出した。
ポールの尽力で命を救われた者は約1200人

 

数の上では小さく見えるかも知れないが、実質はとてつもなく大きな変化

 


血で血を洗う復讐では絶対に成し得ないことを、ホテルの支配人として培った社交力、賄賂に使った、少々のハッタリと頓知なけなしの勇気、そしてツチにもフツにも分け隔てなく発揮した慈しみで、彼は実現した。


ヒーロー活劇的な格好良さは全くない。

だが、本当の革命って、こう言うことだ。

ご本人。


この作品は実話を基に撮られており、ポール・ルセサバギナは現在ベルギーで暮らしている。


有事に男性の全母性が開かれた、貴重な例として深く感謝を捧げたい。

 

自他を超え、革新される命。

(2018/1/25)