《未知の風》

 

安全安心な既知に囲まれた場所に座り込んだままで、我が身の不覚や不自由を嘆いても、何の変化も起こらない。

それまでとは勝手が違うかも知れない未知の領域に、踏み出す勇気が必要な場面は必ず来る。


求める意志があればそのチャンスは訪れる。

 


更に有り難いのは求める意志に応じて、未知の存在が訪ねて来てくれるチャンス。
この場合は、受け入れる勇気が求められる。

本日はそんな未知の受け入れを経て進化に至った存在についての話。

 


彼女は都会に住む富裕な上流家庭の子女で、俗に言う「お嬢様」


只、幼くして母を失い、健康も害して車椅子の生活を送っている。

本当は歩くことが出来るのだが、「一人で立ったり歩くことなんて出来やしない」と言う認識が、彼女を車椅子に象徴される「不自由だけど安全な世界」の中に留まらせている。

そんな彼女のせめて話し相手になればと、人づてに話が巡って、ひょんなことから呼び出されたのがこの存在


アルムの山で暮らしていた、野育ちの少女である。

片親なしのお嬢様の上を行く「両親なし」、更に財産も教養も高貴な血筋も何もなしのシンプル極まりない状態


にも関わらず元気いっぱいなこの存在を、元気のなかったお嬢様はいつの間にか丸ごと受け入れてそのまんま愛する

そこには優劣も、競争も、思惑も、何の都合もない。

 


まるで自分に与えられなかった素養全部を持つかの様な存在に素直な愛を送った時、クララお嬢様の世界は広がり、未知の風がそこに吹いた。

不思議なものでクララが元気になるにつれて、今度はハイジの元気がなくなる。

元気を取り戻す為、ハイジが元々暮らしたかった場所であるお山に帰ることになると、彼女の自由を尊重して送り出し手放すクララ。

 

実際この時点で、もう立ててる様なもんである。

 


そこへもう一段階アップの、進化のチャンスが訪れる。


ハイジの住むアルムの山へ自らが出かけるのだ。

馴染みの世界に未知の存在を受け入れることが出来た彼女に、今度は未知の領域へ踏み出して行く機会が生まれた。

 


「寒いかも」「虫いっぱい居るかも」「誰もお嬢様扱いしてくれないかも」
そんなことを気にして「ちょっと足の調子が…」とやめにすることも出来たろう。

「時々で良いから又、こっちに来て」
とハイジを呼び寄せようとすることも出来たろう。

だが、クララはそれをしなかった。

そんな彼女に向け、更にチャンスの天使が舞い降りる。

 


原作ではこの少年が嫉妬から繰り出した「崖に椅子投げ捨て」と言う暴挙。
テレビ版ではクララ自身のうっかりからの破損。

そんなこんなで車椅子が走行不可になる。

タイミングよく牛が駆けつけたりハイジがキレたり「もうこれどうにかしなかったら大変よ!」な状況が次々に発生。

 


様々な力に後押しされて、自身の力も振り絞り、

「クララが立った!」


が完成した。

自己認識が構築した限界突破
ブレイクスルーの瞬間である。

この一連の動きを観察して、申し上げられることがある。

未知を受け入れる時、

その者の世界は広がる。


冒頭では踏み出す勇気受け入れる勇気とを分けたが、実際は未知に踏み出す時も「出ながら同時に受け入れている」訳で、未知に出会う時はホームでもアウェーでも受け入れは必須。

全面受け入れがあってこそ、真っ直ぐ快適に歩を進めることが出来る。

ハイジはあくまで切っ掛けであり、救世主ではない。


受け入れるクララの器の大きさこそが、自身を変える原動力となったのだ。

 

未知の風、吹かす女神。

(2017/10/23)