《別無き一》
「そうか、この道は通ったことがなかったぞ」
幾度か訪ねたことのある場所からの帰り道。
ふと気づいて、来た時とは異なる方角に進んでみた所、面白いことが続いた。
丁度、その地域について知りたいことがあって色々と調べている最中。
これまで一度も通ったことのない細い路地は、歩きながら実に沢山のヒントを提示してくれた。
すれ違う目を引く風貌の人。やたらと紙が貼られている小さな神社。マンションに打ち捨てられた謎のゴミ。
どこにどう嵌るピースかはまだ不明だが、どんどん新しく集まるのに感心しながら歩いていたら、突然大通りに出た。
目に入ったのは人、人、人が行き交う姿。
アジア系を中心に海外から来た人が多く集まる場所なので、一瞬まるで違う国にいる様な不思議な感覚が起き、面白い。
店の看板等に書かれた字も多彩である。
「美白」を追い求めて作り上げた、滑らかな肌を誇る男性や女性が写る巨大な広告や、彼らの姿をプリントしたグッズが所狭しと並ぶ店。
人間の欲望がこんなにも分かり易く迫って来る光景は、このところあまり見る機会がなかったと感謝して観察した。
止むことのない音と光の洪水みたいな店の隣に、何もポップな色のない寺があったりするのでその温度差も面白い。
「あれこれ考えを巡らす人間の、頭の中を歩いているみたいだな」
と、楽しみながら真っ直ぐ進んでいると、ずっと続く繁華街もないと言うことなのか段々派手な色が減って来た。
左手に以前通りかかったことがあるが、中に入る機会のなかった神社があるのに気づいた瞬間。
ボッ
と言う音と共に、さしていた傘がいきなり畳まれた。
「うわぁっ!はーい」
と、勢いよく左に曲がって、その神社に詣でることに。
参拝を終えて、神籤を引くとその内容は見事なまでに、只今調べていることについての丁寧な説明となっていた。
一なる歩みで進んでいると、日々こんな風に愉快である。
人も神も、別無き一。
(2025/9/15)