《順と命》
意識が中心に在る状態で、全体一つの流れに沿った行動を意志する時。
その意志を虚空に向けた、オーダーが通る。
「これから○○をしようとしている。全体の流れに沿って進めたいのでその様に」
こんな風にオーダーをすれば、○○をすることが全体の流れに沿っていなければ自然と立ち行かなくなるし、進むにあたっては個人の思いや考えの限界を遥かに超えた展開が生じる。
そこで必要なのは、その行先や道程に思い考えを巡らすことではない。
適時を逃さぬこと、ビックリしたり浮かれたりした際につい現実に己の手を加えて操作しようと試みたりしないことである。
このオーダーについて、以前面白い質問を頂いたことがある。
「オーダーと注文って、どう違うんですか?」
成る程、オーダーメイドの服や注文住宅など、「特定の対象が使用する目的に限定された発注」を意味する時、両者は極めて近い雰囲気を持っている。
面白いなと感じたのは、宮司を名乗る“これ”に向けて上が示して来るメッセージの中に使われる「オーダー」と「注文」の言葉は、それぞれ全く違う意味で届いていたことに気がついたからである。
似た言葉として言い換えで使われたことがない。
言葉の中に入っている意味は、似ても似つかないものである。
調べてみてその理由に感心した。
オーダー(order)には、「命令」の他に「順序」の意味がある。
語源を調べると「整列」を意味するordreから更に、 「順序だった列」のordoに「合う」のher-をつけたものに遡ることが出来た。
この順序だった列から「物事を順序だったもの(ordo)にすること」の意味が生じた様である。
順番・順調・順行の、順。
オーダーと同じ語源を持つ言葉に「普通の」を意味するordinaryがある。
順とは申し上げるまでもなく「全体一つの流れに沿っての順」と言うのが本来である。
「背の順に並ぶ」「出席番号順に並ぶ」、一個人が自分の感覚で言う「普通さぁ」等はどれも皆、後から作った流れになる。
良い悪いではなく、本流とは異なると理解することは必要なのだ。
オーダーについて、その語源から分かったのは、「順序」から始まって「命令」の意味が後から生じたと言う流れ。
この流れには、全一を一旦忘れて個々の我田引水を体験する様になった不覚時代の進行状況がそのまま表れている。
時代の変化と共にオーダーも、その本来の意味に立ち返る時期が来ている。
さてもう一方の、注文である。
これは「ちゅうもん」又は「しるしぶみ」と読む、中世に発達した文書から来ている。
主君の命による調査の際に控えや明細として作成されたそうで、人名や調達すべき物資の明細の他に、合戦で負傷した者や負傷の状況を記した「合戦手負注文」や、討ち取った敵の首の明細「分捕頸注文」等が記録として残っている。
「首?それと、前後が逆!」
と驚いた。
つまり、
「ご注文を繰り返します、ミラノ風ドリアがお一つと…」
みたいな「これから用意するよ」なもの、調達すべき物資リストだけが注文なのではなく、
「ご注文をお伝えします、敵将の首お一つと…」
みたいな「作ってあるよ」なもののリストも注文だったのだ。
そして注文は「主君ありき」で、その主君とは全体一つの虚空ではなくどっか一部分を統治する王様や殿様である。
注文住宅で言うと、一国一城の主となる「施主」がこれに当たる。
最初から部分の目的を叶える為のものとして生まれた注文が、全体一つの流れに沿う順序を示すオーダーと、全く違うことに何の不思議もなかった。
二つの言葉の語源や成り立ちをまだ知らない段階でも、「意味の違うもの」としてメッセージは上から送られ、又それを納得して受け取ることは出来ていた。面白いことである。
変容の時代になっても未だ全体一つの流れに沿うこと意志せずに、個としての欲しいものを叶える為に細かく注文を付けることだけしている人々には、分かり易い形で突然に限界がやって来る。
それがたまたま時流に合っている時、全体一つの流れに乗っかれている時は、望んだ感じに運ばれることもある。
だが、一たび逸れると流れから放り出される形で、水のない場所に呆然として座り込むことはあっという間に起きる。
注の左は「氵」でさんずい。
主に向かってご注進したり、主として文句付けが出来たりと言う色々も、全て水があればこそだったのだ。
干上がるか溶けるか。
(2022/4/4)