《苦楽と行動》
外を見て冷たい雨が降っているのに気づいた宮司。
大きい傘を取り出して散歩をすることにした。
冬は乾燥していることが多く、そう言えば雨のクリスマス・イブって、あまり体験したことがない。
以前ならホワイト・クリスマスになる展開が、気候の変化で雨になったのだとすれば、これからこうした機会は増えて来るかも知れない。
公園の木々には雨粒が飾りの様に付いてとても美しいが、周囲には靄がかかり、寒い所為か人は殆どいなかった。
こんなに美しくても、多くの人は雨の世界をわざわざ見に来ない。
「お足元の悪い中……」
デパートに着いたら、こんなアナウンスが聞こえた。
客として訪れた人は濡れた傘を袋に入れ、迎える側は滑らないように気を付けて掃除をしたりと、雨の日はすることも増える。
だから悪と言うことなのだろう。そして、来てくれたことを感謝している。
悪からの感謝と言う、これも面白い運びだと興味深く聴いた。
さて、こちらも傘を袋に入れようと、入り口を見回した時。
傘袋を使う機械の前で、ちょっとした渋滞が起きているのが見えた。
差し込み口に、折り畳み傘を適当に捏ねたものを何とか押し込もうと格闘している女性。
その後ろには行列が出来ている。
「おお、ドン・キホーテ…」
ふわっとまとめただけの折り畳み傘で、細い差し込み口を狙うのは、かなり無謀な戦い。
近くまで歩いて行って、
「折り畳み傘用の袋は、こちらに掛かっていますよ」
と、機械の側面に下がっている短い袋を指差すと、女性は驚いて袋を見た後で一枚むしり取り、礼を言って去って行った。
丁度女性の陰になって、行列している人の側からは傘袋は見えていなかった様だ。外野でないと分からないこともある。
渋滞は解消されてこちらも傘袋を頂けたが、こうした間も、中に入ってから見たごった返す店や長々と続く受け取りの列でも、人々が苛々している様子はなかった。
きらきらと輝く照明や、特別なイベントと言う雰囲気づくりの効果だろうかとその光景を眺めていて、気がついた。
何よりも、「自ら求めてそれをしている」と言う自覚が、起こることへの納得を生んでいる。
強いられれば、そこには苦痛もセットになる。
これは偶々、この場で見た光景がそうだったと言うだけで、クリスマスを苦行だと感じる人が居ても勿論不思議はない。
自らの意志で行動していると言う自覚は、体験を条件付けから解放してシンプルにする。
苦楽を決めるのは行動の種類ではないと言うことを、教えてくれるのだ。
体験も贈りもの。
(2025/12/25)
